奇跡のリングギアはイタリアへ。走れない私たちを救った温かな食卓
北京パリ モーターチャレンジ、DAY31。
本隊より一日早く国境へ向かった私たちは、積載車に載せたビューイックとともに、
休まずにギリシャのThessalonikiまで先行していた。
この日、私たちは正規の競技ルートをまたしても走ることは当然できなかった。
エンジンを響かせることも、アクセルを踏むこともなく、
積載車の上で運ばれていくビューイックの上で。
何カ国・・積載車の上で過ごしたのか・・。
もはやどの国の輸送業者の運転手とも言葉は通じないが長い長い距離を進む中で
仲良くなっていった。

明日は海を渡り船に乗るため、
Igoumenitsaへ本隊より一足早く向かう。そして、そこで再び本隊と合流する計画だ。
けれど、私たちの頭の中にあるのは、もうルートでも順位でもなかった。ニューヨークで見つかった、あのリングギアのことだけだった。
ニューヨークを出たリングギア
世界中の仲間たちの呼びかけによって見つかったリングギアは、
ようやくニューヨークを出発したと連絡が入る。
そして、なんとか国境を渡ったイタリアで受け取る段取りができた。見つかっただけでも奇跡だった部品が、今度は大西洋を越え、私たちが向かう先へ飛んでくる。
「これで、もう一度走れるかもしれない」
イタリアでの修理工場ももちろん探して段取りを進める。
ようやく少しだけ、希望が現実に近づいたように感じた。
でも、まだ手にしたわけではない。
荷物を確実に受け取るための書類を提出し、現在地とこれからの移動先を伝え、配送状況を確認する。
受け取り場所に無事到着するのか?
私たちと部品は、同じタイミングでイタリアへ着けるのか。
小さな行き違いひとつで、すべてが間に合わなくなるかもしれない。
連絡は、途切れることなく続いた。
もう、神様に祈るしかない
部品はニューヨークを出た。
受け取る段取りもついた。
私たちも、イタリアへ向かっている。
できる準備は、すべてした。
それでも最後は、飛行機が予定どおりに飛ぶことも、荷物が無事に届くことも、私たちが時間どおりに受け取れることも、祈るしかない。
自分たちの力で走らせることができない今、ただ待つ時間は、走り続けるよりも苦しかった。
「どうか、間に合いますように」
北京を出発してから、何度も何度も心の中で繰り返してきた言葉を、また唱えた。
何もできない一日だから
ここにいても、私たちにもうできることはない。
車はは積載車の上。
リングギアは空の上。
連絡を待つ以外、車に手を入れることさえできなかった。
気がつけば、国境越えと故障の不安で、心も身体もガチガチに凝り固まっていた。
束の間の休息になった1日・・明日からはまた本隊と合流しゴールを目指す。
その前に、少しだけ自分たちを休ませよう。
ずっと着続けてきた競技のユニフォームを脱いで、洗濯した。

汗と土ぼこり、不安と焦りまで、全部一緒に洗い流せたらいいのに。
久しぶりにシャワーをゆっくり浴びて昼寝もした。
身軽な服へ着替えると、張り詰めていた気持ちがほんの少し緩んだ。
心を満たしてくれた食事
近所を散策してレストランへ入り、久しぶりに温かくておいしい食事にありついた。

走ることも、修理することもできない一日。
だからこそ、空っぽになっていた心を、食事で満たそう・・そう思った。

料理のおいしさはもちろん、店の人たちの笑顔や気遣いが、
疲れ切った私たちの心に染みた。

言葉も文化も違う国なのに、困っている人を放っておかない。
笑顔で迎え、できることを自然に差し出してくれる。
この国でも、やっぱり人はあたたかかった。
北京からここまで、私たちは何度も人に助けられてきた。
車が止まるたびに、旅そのものまで止まってしまったように感じる。
でも、そのたびに誰かの手が伸び、私たちを次の一歩へ押し出してくれた。
明日は、海を渡る
洗ったユニフォームが乾く頃、私たちの心も少しだけ軽くなっていた。
リングギアは、イタリアへ向かっている。
私たちは明日、Igoumenitsaへ向かい、本隊と合流して海を渡る。
まだ何ひとつ確実ではない。
それでも、今夜だけは温かな食事と人の優しさを胸に、身体を休めよう。
明日から、また時間との勝負が始まる。
{}奇跡のリングギアと、再び走る未来を信じて。
DAY32へ続く……
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