仲間と押した6時間。銃口の先で越えた国境
北京パリ モーターチャレンジ、DAY30。
この日、本隊はイスタンブールにとどまり、これから始まる国境越えに備えて車両を整備する日だった。
長いアジアの道を走り抜き、いよいよヨーロッパへ。
本来なら私たちも、仲間たちと一緒に車を点検し、身体を休めているはずだった。
けれど、リングギアが壊れたビューイックには、整備できる部品がまだない。
何一つ・・できない。
ニューヨークで見つかった奇跡のリングギアが、本当に届くのか。どこで受け取れるのか。ゴールに間に合うのか。
何も分からないまま、時間だけが過ぎていく。
待つのではなく、先へ進む
故障した車両で国境を越えるには、とにかく時間がかかるという情報は手に入れた。
いや・・考えてもそうでしかない。
本隊と同じ日に出発していたら、国境で足止めされ、
その先で部品を受け取る可能性さえ失ってしまうかもしれない。
だから私たちは、本隊がイスタンブールで整備をしている間に、
ひと足先に出発することを決めた。
一緒に向かったのは、同じように故障を抱えた競技仲間たち。

自分たちの車だけでも大変な問題を抱えている状況なのに、誰かの車が止まれば、みんなが降りて押す。工具が必要なら差し出す。
困っている人がいれば、言葉より先に手が伸びる。
この仲間たちの力が、本当に私たちを助けてくれた。
競技ではライバルかもしれない。
でも、ここまで一緒に走ってきた私たちは、もう同じゴールを目指す仲間だった。
数百メートルが、果てしなく遠い
国境に到着するまでも様々なトラブルがあった・・。2時間も待ってくれた仲間と共に
6時間もの時間をかけて国境を手押しで目指した。



灼熱の太陽が燦々と輝る国境をトルコの長期休暇で渡る大渋滞の中・・
車両として国境を通過しなければならないのに、その車両が動かない。
あと数百メートル。
たったそれだけの距離が、果てしなく遠かった。
押して、止まって、また押す。
灼熱の太陽の下、鉄の塊のようなクラシックカーを、仲間たちと何度も押し続けた。汗で服はびしょびしょになり、腕も脚も、もう力が残っていない。
それでも、ここで止まるわけにはいかなかった。
国境を抜けるまで、6時間以上。
あれは「車で国境を越えた」というより、みんなの手で一台の車を国境の向こうへ運んだ時間だった。
突きつけられた銃
国境では、当然歩いて通過することが認められていなかった。
けれどビューイックは、数百メートル先へ進めるかどうかさえ分からない。
私は必死になって車を押していた。
何度も忠告を受ける(・・言葉が通じないからそんなニュアンス)
怒られてる・・でも行きたいんだ!
どうしろっていうんだ!
私は思わず兵士に向かって叫ぶ・・。
「車が故障してるんだ!一体どうしろっていうんだーーーーー」
疲労と苛立ちがとんでもない私を引き出した(笑)
そのとき、国境警備の兵士が私に銃を向けた。
「車に乗れ」『車に乗れ」
言葉が通じなくても、その命令だけは分かった。
でも、乗るべき車は動かない。
押してはいけない。
歩いてもいけない。だからといって、この場所にとどまることもできない。
どうすればいいの!?
恐怖と焦りで頭の中が真っ白になりながら、私は近くにいた一般の車へ必死に頼み込んだ。
「お願いです。国境の向こうまで乗せてください」
何台もの車が怪訝そうな顔で振り払う。
それでも諦めないんだ・・。
何台も何台も声掛けをする。
事情を分かってくれた家族連れの車が、私を車に乗せてくれた。
また奇跡が起きた!
見ず知らずの人の優しさに助けられ、私はようやく国境を渡ることができた。
私たちを前へ進めたもの
この日の私たちを前へ進めたのは、エンジンではなかった。
止まった車を一緒に押してくれた仲間。知恵を出し合ってくれた人たち。
そして、国境で私を車に乗せてくれた見ず知らずの方。
人の手と、人の優しさが、動かないビューイックと私たちを一歩ずつ前へ運んでくれた。
北京からパリまでの旅は、速さだけを競うものではない。
自分ひとりでは越えられない壁に出会ったとき、誰かの力を借りること。そして、誰かが困ったときには、自分の力を差し出すこと。
この仲間たちがいなければ、私たちはあの国境を越えられなかった。
本隊より一日早く進み始めた私たちのDAY30は、本来のDAY31のルートへと続いていく。
お腹がすいてることにも気づかなかった・・。
野良犬たちが食べ物をくれと言わんばかりに寄ってくる・・。
私もお腹が減ったよ・・。
狂犬病?野良犬?
そんなことすらもう恐怖も何もかもが消えていた。
一緒に分け合って食べよう・・なんだか野良犬たちとも通じた気がした・・。
頑張れよ・・そんな風に吠えた。
けれど、奇跡のリングギアが届く目処は未だ立っていない。
パリのゴールまであと1週間に迫り過ぎ去った30日間を振り返るも、まだまだ遠い。
動かない車とともに、私たちはさらに先へ。
DAY31へ続く……
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