北京パリ モーターチャレンジ、DAY33。

ギリシャの港を離れた船は、仲間たちと私たちを乗せて、
海の向こうのイタリアへ進んでいた。

長い間、本隊のルートから外れていた私たちにとって、
みんなと同じ船に乗っていること自体がうれしかった。

100年前のビューイックはまだ自分の力で走れない。

ニューヨークから飛んでくるリングギアも、まだ手元にはない。

それでも今は、また仲間たちと同じ時間の中にいる。

そのことが、ただただうれしかった。

「KOMOもおいで!」

船の中では、仲間たちがホールに集まり、ビールを片手に楽しそうに歓談していた。
あちらこちらから笑い声が聞こえ、長い旅の途中とは思えないほど、にぎやかな時間が流れていた。

「KOMOもおいで!」

仲間たちが、私にも声をかけてくれた。

うれしい。忘れられていない。
でも、相変わらず私は英語がまったく話せない。

みんなが何を話しているのか、ほとんど分からない。
話しかけてもらっても、気の利いた言葉ひとつ返せない。

結局、私は笑っていることしかできなかった。

それでも、仲間たちは笑顔で私の居場所をつくってくれた。

言葉が分からなくても、同じ北京から走り、同じパリを目指してきた時間がある。

その積み重ねが、言葉の代わりに私たちをつないでくれていた。

スタートの日へ巻き戻ったような夜

仲間たちの輪の中にいると、北京をスタートした日の時間へ巻き戻ったような、不思議な気持ちになった。

あの日、これから何が起こるのかも知らず、
古い車と一緒にパリを目指す冒険へ飛び込んだ。

期待と不安で胸がいっぱいだったのに、それ以上にワクワクしていた。

故障を重ね、本隊から離れ、もう戻れないかもしれないと思った日もあった。
リタイアなんて何度過ったかわからない。

それでも今、また仲間たちと同じ船にいる。
旅がもう一度、最初の日から始まるような気がした。

まだ終わっていない。

私たちは、まだパリを目指している。

33日間を走ってきた車たち

旅が始まってから、もう33日。

船に並ぶクラシックカーを見渡すと、どの車もずいぶんくたびれているように見えた。

何十年、車によっては100年近く前に造られた古い車両たちが、砂漠を越え、山を越え、悪路を走り、国境を渡ってきた。

泥と土ぼこりをまとい、傷や修理の跡を増やしながら、それでもここまで走ってきた。

エントリー台数の最初は数百台いた。
しかし、北京のスタートにたどり着いた車両は100台を切っていた。
2022年の開催予定から2年の歳月の中には、コロナや戦争、円安の影響
そして。。がんになる。

っと数知れずの困難が押し寄せた。
一緒に走ろうね!と約束した前哨戦であった仲間の姿もなかった。

でも!私はスタートしてまだ走り続けてる。

事故に遭った車もある。
車両が燃えてしまった仲間もいる。

何度修理しても走ることができず、
リタイアを選ばなければならなかった仲間もいる。

スタートの日に並んでいた全員が、今この船にいるわけではない。
空いた場所を見るたびに、この旅の厳しさを思い知らされた。

疲れていたのは、車だけではない

くたびれているのは、クラシックカーだけではなかった。

参加者たちの身体にも、33日間の疲れが積み重なっていた。

「お腹を壊してから、もう一週間になる」

「熱と咳があるから、今夜は部屋にこもるよ」

そんな声も聞こえてきた。

毎日、早朝から長い距離を走り、暑さや寒さにさらされ、満足に眠れない日もある。

食事も水も、いつも身体に合うとは限らない。

車が壊れれば、その日のうちに直し、また翌朝には走り出す。

人も車も、限界ぎりぎりのところで旅を続けていた。

それでも、今日のホールには笑い声があった。
ビールを片手に、互いの無事を喜び、今日ここにいられることを分かち合っていた。

みんな、明日を走るために笑っていたのかもしれない。

笑顔で伝えられること

英語が話せない私は、やっぱり笑っていることしかできなかった。

でも、この旅で何度も感じた。

言葉が通じなくても、笑顔なら伝わる。

一緒に喜び、一緒に踊り、無事を願う気持ちは伝えられる。

「また会えてうれしい」

「ここまで一緒に来られてうれしい」

「明日も一緒に進もう」

口に出すことができなくても、私の笑顔から伝わっていたらいいなと思った。

そして、仲間たちの笑顔からも、確かに伝わってきた。
私たちは、また同じ旅の中へ戻ってきたのだ。

明日はいよいよ!

船は夜の海を進んでいく。

海の向こうにはイタリアがある。
そして、私たちが待ち続けている奇跡のリングギアも、イタリアへ向かっている。

本当に受け取れるのか。

もう一度私たちは自分の力で走りだせるのか。

パリのゴールへ間に合うのか。
まだ答えは分からない。

でも今夜は、仲間たちと再び同じ場所にいられる喜びを胸に、
明日を待とう。

明日はいよいよ!
私たちの北京パリ、次の一歩が始まる。
DAY34へ続く……




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