DAY35 | ニューヨークから届いた最後の希望——そして、4年越しの想いも届いた夜
北京パリ モーターチャレンジ、DAY35。
ゴールまで、あと2日。
港へ着いた私たちは、本隊と別れるとすぐにホテルへ急いだ。
ニューヨークから届くリングギアを受け取り、
その足で修理工場へ向かわなければならない。
一分でも早く。
もう、立ち止まっている時間はなかった。
ニューヨークから届いた奇跡
仲間たちが世界中へ呼びかけ、
走行ルートから遠く離れたニューヨークで奇跡的に見つかったリングギア。
見つかっただけでも信じられないことだった。
けれど、本当にイタリアまで届くのか。
どこで、いつ受け取れるのか。
受け取ったとして、ゴールまでに修理は間に合うのか。
祈りながら待ち続けた荷物が、FedExでホテルへ届いたのは、
午後2時を回ってからだった。
箱を開け、探し続けたリングギアをこの手で確かめた瞬間、胸の奥から喜びが込み上げた。
届いた。
本当に、届いた!
見ず知らずの私たちに一枚のメッセージも添えられている。
ニューヨークから海を越え、私たちの最後の希望が目の前にある。
奇跡は、まだ私たちを見放していなかった。
しかし、喜んでいる時間はない。
私たちはリングギアを抱え、待ってくれている現地の修理工場へと急いだ。
届いても、取り付けられなければ走れない
工場では、現地の修理スタッフが私たちを待ってくれていた。
すぐに作業が始まった。
ところが!!
相手はおよそ100年前に造られた車両。
新しいリングギアを取り付ける前に、壊れた部品を外さなければならない。
その作業が、想像以上に難航した。
古い部品は簡単には動かない。
力をかけすぎれば、別の場所を壊してしまうかもしれない。
慎重に、少しずつ。けれど時計だけは、容赦なく先へ進んでいく。
ゴールまで、あと2日。
リングギアは届いた。
それでも、再び自分の力で走れる見通しは、簡単にはいかずまだ立っていなかった。
作業は夜通し続けられることになった。
胸の片隅に残っていた、苦い記憶
修理をスタッフに託し、私は本隊が集まる最後の夕食会場へ向かった。
そこへ向かう私の心の中には、故障した車、このラリーにエントリーを決め
そこから数知れず乗り越えてきた困難の日々。
実はそれ以外にもずっと消えずに残っていた思いがあった。
日本から参加した私たち。
そして、英語がほとんど話せない私。
エントリーしてから今日まで、
主催者とのコミュニケーションがうまくいかないことも多かった。
前哨戦として参加したモロッコでは、主催者とほとんど言葉を交わせないまま
リタイアした。祝勝会では目も合わせてもらえないまま、この後の北京パリに
進む道に受け入れられていない寂しさと不安も募っていた。
北京パリへエントリーした4年前には、何度も参加を断られた。
ようやくスタートラインに立ち、ここまで必死に追いかけてきたけれど、
その時の寂しさや悔しさは、ずっと心の片隅に残っていた。
突然、ステージから呼ばれた名前
夕食会場には、長い旅をともにしてきた仲間たちが集まっていた。
修理工場での様子、一緒にゴールしよう!
仲間たちが心配と応援の声をかけてくれていた。
この冒険の旅で何度となく・・ルートから外れリタイアが過った日々。
言葉が思うように伝わらないコミュニケーションの中で存在が消えていく
寂しさや孤独に駆られた日々もあった。
でも!私はまだみんなと一緒にゴールを目指しているんだ!
にぎやかな会場で、主催者が最終のゴールまでの説明やこれまでの日々のことを
マイクで話している。
突然、私の名前が呼ばれた。『No.11 KOMO、JAPAN・・・」
あまりにも突然のことで
何が起きたのか分からないままステージを見ると、
主催者が私たち日本人チームのことを話し始めた。。。(たぶん・・・・)
数え切れないほどの故障に見舞われながら、
それでもリタイアせず、何度も本隊へ戻ってきたこと。
ここまで諦めずに、パリを目指してきたこと。
そして——。
今日は、私の誕生日だということ。
毎日を生き抜くことに必死で、自分でも忘れかけていた誕生日。
会場中から「ハッピーバースデー!」の歌がと共に、大きな拍手が私を包んだ。
突然のことに感動の涙すら出なかったが、みんなの笑顔が嬉しかった。
ずっと遠く感じていた主催者が、私たちの走りを見ていてくれた。
言葉が通じなくても、何度遅れても、諦めずに追いかけてきた私たちの姿は、ちゃんと届いていた。
4年前、何度も断られた北京—パリ。
モロッコで、言葉を交わせないまま終わった苦い記憶。
そのすべてが、仲間たちの拍手の中で、少しずつほどけていくようだった。
人生最大の誕生日
うれしかった。
胸がいっぱいになった。
こんな誕生日は、人生で初めてだった。
けれど、心のすべてを喜びに預けることはできなかった。
その頃も工場では、11号車を走らせるための作業が続いている。
ニューヨークから奇跡的に届いたリングギアは、まだ車両に取り付けられていない。
明日、走れるのか。
パリへ間に合うのか。
答えは、まだ分からない。
喜びと感動。
焦りと不安。
まったく違う感情が、同時に胸の中で渦巻いていた。
それでも、この夜にもらった拍手は、私にとって大きな贈り物だった。
車が走れるかどうかも分からない、ゴール目前の夜。
私は初めて、主催者や世界中の仲間たちと、心から同じ旅を走っているのだと思えた。
パリのゴールには、まだ届いていない。
けれど私たちの思いは、この夜、確かにみんなの心へ届いた。
人生最大の誕生日。
その夜も、11号車をよみがえらせる作業は続いていた。
残された時間は、あとわずか。
DAY36へ続く……
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